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May 2, 2019

気がつけば魚がいた

白魚
Photo & text by Takuya Hikita

そして、この日が人生にとって大きな転機になるとは、彼も含めて誰も知らなかった。しかし、振り返ってみれば「疋田拓也」としての人生を決めたのは紛れもなく、初めて釣った1匹の「ネンブツダイ」だった。

  「おお!釣れてる!!」思わず彼は大きな声をあげる。真っ赤な魚が水面から顔を出す。10cmくらいのちっぽけな小さな魚。それは彼にとって素晴らしい感動……しかし同時に、大きな恐怖を感じる瞬間となる。「うわー、生きてる!気持ち悪いよー!!」そう、彼は魚を触ることも、もちろん食べることも全く出来ないのだ。「ほら、見てごらん」父親が続く。優しく魚を持ち上げ、大きな彼の手のひらで小さな魚が躍る。綺麗な目、鮮やかな色彩、全てが街のスーパーなどで見てきた魚とは違うように感じる。「これが魚なの?」彼は驚いた。「新鮮な魚は臭くないんだよ」父親がタバコを片手に持ちながら自慢げに応える。

 「さあ、あったかいうちに食べてごらん」釣りたての魚が食卓を彩る。ネンブツダイの塩焼き、ベラの煮つけ、小イワシのフライ等々、しかし魚嫌いの彼にとってみれば悪夢のような食卓。「ハンバーグがいいなー」彼は不満げに応える。「誰が釣った魚なのかな?釣り上げて死んでしまった物を食べてあげずに捨ててしまったら、魚が可哀そうだよね。しっかり“頂きます”をしてごらん。それが命との接し方だよ」

 “命との接し方”、“新鮮な魚は臭くない”、その短い二つの言葉は彼の中に長く留まり続ける。弱冠5歳、こうして今に続く“”疋田拓也“”としての原型が形成された。

「白魚」…とても可憐な魚です。ピンと伸びた尾びれ、小さいながらも輝きを帯びた愛らしい目。冬頃に漁期が始まり、3月末から5月中旬ごろまで各地沿岸にて漁の最盛期を迎えます。鮮度の良い物は、体全体が透き通り、とっても綺麗です。鮮度が落ちていくと次第にくすんで、白色へと変化していきます。

築地セレクションズに入っている白魚は冷凍状態では白色ですが、解凍すると非常に綺麗な透明になります。是非、刺身でお召し上がり下さい。また、可能であれば天ぷらにもしてみて下さい。刺身で食べられる鮮度を敢えて加熱して天ぷらで頂く……軽く塩を振って、ふっくらとなった白魚独特の風味を楽しんでいただければ幸いです。

来月は「わかめ」のお話しです。お楽しみに                      

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Takuya Hikita
疋田拓也(Hikita takuya)東京都世田谷区出身、父親の実家である静岡県・沼津にて魚釣りをしたことから、すっかり魚の「とりこ」になる。大学時代は海洋学科にて魚類行動学・機能栄養学を専攻。築地魚市場㈱に入社後、セリ人として鮮魚・冷凍魚を取り扱う。その後、北米での原料買付・アジア向けへの輸出業務を経験。その後、2018年「TSUKIJI FISH MARKET Inc.」をバンクーバーに設立。モットーは「ニッチの強者」
Takuya Hikita

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