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Jul 19, 2014

◯ ショートノベルズ 診察室

Now Playing

Illustration by Yurie & Text by Hiroko Hosaka

hiroko_july
玄関のドアを開けると、立っていたのは白人の女の子だった。肌がとても白い。白人なのだから当然なのだが、白というよりは透き通っているみたいだ。瞳の色 は茶色がかったグレー。しかし、髪は真っ黒で、ところどころにピンクのメッシュが入っている。 黒というより深い紫に近い。 顎までのボブ。薄手のグレーのウールのセーターに短い黒のタイトスカート。その下に黒い網タイツを履き(ところどころ破いてある)、靴はふくらはぎまでの 革のブーツ。これも黒。靴底の分厚いガッチリしたタイプ。 左の小鼻にピアスをしている。髪から飛び出したトッポジージョみたいな耳には、やや太めのへリックスを2つしているのが見える。右耳だけ。それ以外にはア クセサリーは全くしていない。ピンクのタンクトップがセーターに透けて見えている。

初めて来るクライアントだった。「こんにちは。中へどうぞ」と英語で言いながら、右手を差し出した。彼女はそっと私の右手を撫でるように握った後「4時に予約したエイプリルです」と言った。見た目とは不釣り合いな繊細で消え入りそうな声。完璧な日本語だった。

私はなりたての指圧師だ。クライアントもまだあまりいないし、資金もないので自宅を診察室にしている。自宅にいるせいか、クライアントにお茶など出 してしまう。特に、初めての人には問診票を書いて貰わなくてはならないので、つい。プロっぽくないからやめたほうがいいと友達に言われるのだけれど、美容 室だってコーヒーを出してくれるところもあるし、歯医者の待合室にはクーラーが置いてあって勝手に水が飲めるようになっている。それで、まあ、いいではな いかと、何となく出し続けている。日本茶か、ジャスミンティーか、たまに、夜眠れなくなる人がいるのでアフリカ産のカフェイン抜きの紅茶。でも、どうして だろう? クライアントにコーヒーを出したことがない。指圧だけでは生活費が足りないため、辞めずにいる日系企業の事務所では、客が来るとコーヒーを出 す。一応、日本茶とどちらがいいか聴くのだが、コーヒーは選択肢に含まれている。どうして私は、自分のクライアントにはコーヒーを出さないのか? とぼん やり考えていると、エイプリルが日本茶をお願いしますと言った。濃く入れた緑茶を透明なグラスに入れて差し出す。黒とピンクの上で若葉色がきれいに映え た。

「ああ、そうだ、エイプリルさん、何か好きな音楽を持ってきましたか?」と聴く。エイプリルが少し身構えた。予約を確認する際に、指圧中に聴きたい 音楽があればiPhoneかCDかで持ってきてくださいと、クライアントにお願いしている。夏なら、窓をあけておけば街の雑踏が聴こえてくるからいいのだ けれど、冬は音楽でもないと部屋が静かすぎる。それで、家の本棚にある少なくはないCDの中から、数枚を適当に机の上に並べてみた。クライアントに好きな のを選んで貰うのだ。試してみると、中には面白がって棚のCDから選ぶ人もいたりして、なかなか好評だ。指圧中、選んで貰ったCDは額立てに立てかけてお く。「Now Playing」と書いたステッカーをわざわざ作り、CDの前に置けるようにした。カルテには、クライアントが選んだCDのタイトルも記入する。

システムとして上手く機能していた。最初は、もう少し静かな音楽はないのかと言われるかな? と思ったけれど、そのような要望を受けることはなかっ た。 気を使ってくれているか、選択肢にないからあきらめているか、どちらかだろう? と思ったが、そうでもないようだ。なぜなら、意外に皆、並べられた中から であれ、棚からであれ、普通のを選ぶことが多いと分かったからだ。普通のというのは、例えば、スピッツとか、ジャック・ジョンソンとか、街中で聴こえてく る音楽という意味だ。机の上に並べたCDの中には、川のせせらぎや鳥のさえずりが入ったCD、ハワイ島の国立公園で買ったメロウな感じのハワイ語の歌の CDをいつも用意しておくようにしていた。棚にはジャズやクラッシックもある。それでも、スピッツはかなり人気があった(日本の人にはという意味だが)。 お薦めのスガシカオを選ぶ人がまだいないのが不満だったが、考えてみると、聴いたことがない音楽を選ぶ人というのはあまりいないのかもしれない。 ここは、CDショップではないのだ。スガシカオはスピッツみたいな売れかたはたぶんしてこなかったし、普遍的でもない。

それで思いついたのが、好きな音楽を持参して貰うというアイデアだった。私のほうが聴くに耐えないと思う類の音楽の可能性もあるわけだが、何とな く、それは大丈夫のような気がしていた。クライアントが心地よいと思う、指圧されながら聴きたいと思う音楽を私の耳は受け入れるだろうと思った。私の手が その人の身体を触って、骨や筋肉の状態を感じたいと思えるなら、耳もきっとそうだろうと思った。
私にとって、静けさを打ち破ってくれる音、或いは、音によるその行為そのものは、とても重要だ。私は音に気配を求める。気配を含んでいることを求める。人 の気配。その人がいたはずの部屋、家、街の気配。クライアントが好きだと言って持ってきた音楽には、彼、或いは彼女の気配が含まれているはずだ。だったら 大丈夫だろうと思った。しかし、人はそれほど音の(いや、気配の?)存在に重要性を見出してはいないのか、CDを持ってくる人はいなかった。

エイプリルが固まったままなのを、CDを持って来ていないと解釈した私は「そうしたら、机の上の中から選んで貰えますか?」と言った。エイプリルは ちらっと私が指さしたほうを見てから言った。「あの、持ってきました」そして、奇妙な黒猫が描かれた薄手のトートバックの中をしばらくゴソゴソとかきまわ した。やがて3枚のCDを取り出し、私に差し出した。

3枚ともGarbageのものだった。 ギャベージ。ゴミ。熱心に聴いたことはないが、確か、90年代の後半によく売れていたアメリカのバンドだと思う。ボーカルの女の子だけがスコットランドの 出身で、強いスコットランド訛りがある。夜中にやっているアメリカのトークショーにゲストとして出ていたのを見たことがあった。訛りのために司会者に英語 が通じず、他のゲストが「たぶん、彼女はこう言いたいのだろう」と通訳をしていた。

最初のCDのジャケットは 晩年のマーク・ロスコの絵みたいに全体が黒く、どこかからぼんやりとしたくすんだ光が差し込んでいる。そこへ赤に近いピンクの大文字で「ABSOLUTE GARBAGE」と書いてある。絶対的なゴミ? もう一枚は、ショッキングピンクの地に鳥の白い羽が敷きつめられていて、中央に黒く大文字でGと書いてあ る。最後の一枚は、たぶん、ショッキングピンクのアルバムからシングルカットされたものだろう。全く同じデザインで、地が青みがかった緑色。Gの文字はピ ンク。何だか、今日のエイプリルの色みたいだ。

私は「 ABSOLUTE GARBAGE 」のジャケットからデイスクを取り出し、プレイヤーに入れた。適当に3番目の曲を選ぶ。私の記憶が勝手に作り変えたであろうボーカルの女 の子、スコットランド訛りを笑われても怒るどころか一緒になって笑っていた無邪気な女の子の声とは思えない、ドスの効いた歌声が響いた。

 

雨の日にだけ、幸せな気持ちになれる
ものごとが複雑に絡み合ったときだけ、幸せな気持ちになれる
こんなこと、あなたには理解できないと分かってるけど
雨が降ってないと、私は幸せな気持ちになれない

 

エイプリルのほうを見ると、真剣な顔をして問診票に取り組み始めていた。彼女が記入を続けている間、自分にも入れた日本茶を飲みながら、私はぼんや りとギャベージの歌を聴いていた。窓の外では、バンクーバー特有の細かい雨が降り出していた。もう3月も終わりだというのに、冷たい雨が降っていた。

 

悪い知らせを聴くとうれしい
悲しい気持ちの時に気分がいいのはどうしてだろう?
雨が降ってないと、私は幸せな気持ちになれない

 

やがて、記入を終えたエイプリルが問診票を私に渡す。エイプリルは長距離ランナーだった。大学の陸上部に所属しているそうだ(私はエイプリルがラン ニングウェアを着て走っている姿を想像してみたが上手くいかなかった)。長い距離を走ると、ふくらはぎに痛みが出る。大学には付属のフィジオ・セラピスト が何人かいるのだが、エリート選手の専門のようになっていて、普通部員はなかなか診て貰えず困っていたところ、最近知り合った同じ大学の男の子から、私を 紹介されたということだ。「なりたての指圧師だけど、彼女もランナーだから診て貰ってみたらと、薦められました」エイプリルは言った。大学生のクライアン トなんていただろうか? 考えてみたが思いつかない。「大学の近くのカフェで本を読みながらお茶を飲んでいたんです」私の疑問を無視してエイプリルは話を 続けた。そして、私からCDプレイヤーのリモートコントロールを取り、ボリュームを上げた。ギャベージが彼女の細い声を掻き消さんばかりに声を張り上げ た。

 

あなたの悲しみを私に注いで
あなたの苦しみを私に分けて
あなたの悲しみを私に注いで
あなたの苦しみを私に分けて

 

雨の日にだけ、幸せな気持ちになれる
ものごとがうまくいかないときだけ、幸せな気持ちになれる
悲しくてしょうがない歌だけを聴く
雨が降ってないと、私は幸せな気持ちになれない

 

私は、声が聴き取れるように、そっとエイプリルに顔をよせた。「そしたら、日本語を読めるの? って話し掛けられて」エイプリルは、小さな子供が内 緒話でもするように、心持ち、唇を私の耳元に近づけた。「何の本を読んでたの?」と私は聴いた。エイプリルはCDの時と同じようにトートバックの中をかき まわし、一冊の本を取り出した。「走ることについて語るときに僕の語ること」村上春樹のランニングに関するエッセイだ。その本を3回読んだことがあること には触れずに、私はパラパラとページをめくった。本には何枚か写真も綴じられている。私は村上春樹が初めて42.195キロを走った時の写真が好きだ。上 半身裸で、紺のランニングショーツ一枚で灼熱のギリシャを走っている。とても若い。少し長い髪が 後ろになびいている。太陽にじりじりと焼けた真っ黒な身体で、うつ向き加減で黙々と走っている。

「私は4分の1、日本人です。母がロシアと日本のハーフ、父はイギリス系です。小さい頃、家の事情で両親とは離れて日本で暮らしていました」 私が黙って写真を見ているとエイプリルは続けた。声は相変わらず小さいが、先ほど、玄関の前に立っていた時より、心なしかリラックスしている感じがする。

「日本に住んでいる母方の祖父母のところに預けられました。それで、日本語は、話すのも、読み書きも、大方は問題ありません。私が見た目は完全に白 人なのに、日本語の本を読んでいたから、彼は興味を持ったんだと思います。彼はカナダ生まれの日系の男の子です。彼もあなたみたいに聴きました。何の本を 読んでるの? って。村上春樹だと答えると、その人、有名? って。村上春樹を知らないみたいでした。 私がきっと、驚いた顔をしたんでしょうね。 彼は 少し顔を赤くして、僕はカナダ人だからと、小さな声で言い訳をしました。 村上春樹の本はどれも何ヶ国にも訳されていて、チャプターズには英語版が平積み で売っていると言ったら、少しホッとした顔をして、僕は哲学書しか読まないからと、今度はもう少し大きな声で言いました」

「彼もランナーなの?」と私は聴いた。私の知り合い、少なくとも私のことを知っている、この日系の男の子が誰なのか、私はまだ思い出せずにいた。エ イプリルの話を聴いていると確かに懐かしい気分にはなるのだが。何年か前、私のふくらはぎの痛みを治してくれたマッサージ師の男の子に感じが似ているかも しれない。でも、彼は大学などとっくに卒業しているはずだ。

「いいえ。でも、高校の時にバレーボールの選手だったみたいです。身体が小さいので、選手交代を盛んに行うアメリカでの試合だったら使って貰えると 思って、カナダで唯一アメリカのリーグ戦に参加しているバンクーバーの大学に入学したそうです。私が今、通っている大学です。それが、バレーボールは女子 部しかなかったみたいで。普通、そういうことは事前に調べると思うけど、哲学の本ばかり読んでいて、うっかりしたのかもしれません」エイプリルが初めて笑 顔を見せた。

「それで、途方に暮れて、大学のグラウンドの観客席に座ってぼんやりと陸上部の練習を眺めていたそうです。その内、長距離の選手の動きが短距離の選 手のそれとは全く違うことに気がついたと言っていました。短距離の選手が動なら、長距離は静だと。脚のスライドは限りなく小さく、腕の振りも殆どない。選 手が走っているというより、周りの風景が移動しているように見える。それなのに、一方で、何かが聴こえてくる。あの微動だにしない身体の中から何かの音が 湧き出している感じがする。それはなんだろう? と思い、それから毎日、授業が終わると、グラウンドに来て練習を眺めていたそうです」

私はまた本に目を落とした。そして、もう少し年を重ねた村上春樹がタフツ大学のグラウンドを走っている写真を眺めた。彼は昔、しばらくアメリカに暮 らしていたことがある。トラックの外側に観客席が見える。観客は誰もいない。写真を眺めながらしばらく続きを待っていたが、エイプリルの話はそこで終わり のようだった。顔を上げると、エイプリルは窓の外を眺めていた。雨がまだ降っていた。

エイプリルにトイレで着替えて貰い、トリートメントを始めた。白いTシャツにグレーのスエットパンツ(おしりのところに大学の名前が入っている)の エイプリルは武装を解いた人のように見えた。彼女の声から受ける印象通りの内気な女の子に見えた。トリートメントに入ってもエイプリルは黙ったままだっ た。ただ、言われたとおりの姿勢で横になっている。私はいつものように身体のゆがみをチェックした。そしてノートに状態を書き込む。それから、左の太もも から指圧を始めた。

実際に指圧をしてみると、さっきまではなんともなかった音楽が気になり始めた。指圧するための筋肉と、音を聴く筋肉で、別々の動きをしている感じ だ。手の動きに耳がついてくると思ったのだが、思い違いをしていたのかもしれない。好きな音楽を持ってきてくださいというアイデアは失敗だったのかもしれ ないと思った。しかし、エイプリルは気持ちよさそうに横になっている。死んでいるのかと思うくらいに微動だにしない。今さら、CDを止めていいかとはとて も聴けない。私はしかたなく、そのまま指圧を続けた。せっしん、せっしんと呪文のように唱えた。せっしんとは、切る心と書く。切心。造語だ。私が習った指 圧の創立者が作った言葉。指圧をする際の心得。「自分の中にある痛みを認め、クライアントの痛みとつながりながら指圧をすること」先生たちは繰り返しそう 言った。人の心のもとのもとは痛みでできている。人と人は痛みでつながっている。痛みでしかつながれない。

太ももからふくらはぎ、そして足の甲へと圧し、右足へ移る。今度は私自身の脚を使う。エイプリルの太ももの内側を私の右膝で圧す。左手でエイプリル の足の裏をやや掴むようにして身体の重みを支えると、左膝をふくらはぎに乗せ、両膝でエイプリルの右足全体を伸ばすようにしながら右手でふくらはぎに圧を かける。普通の人でもふくらはぎを指圧されると痛がる。ランナーは特にそうだが、エイプリルは何も言わない。全く反応を見せない。少し心配になり、指圧の 手を止めて顔を近づけた。息はしているようだ。耳元で「大丈夫ですか?」と声をかけると、しばらくしてから薄目を開けて私を見た。そして、小さく頷いた。 私はほっとして、指圧の続きをやり始めた。そして、あれ? と思った。自分の身体が少し変わったように思ったのだ。音楽が急に気にならなくなった。

多くの長距離ランナーが経験したことがあると思うが、ランナーには身体が長距離の体勢に入る瞬間というのがある。トレーニングで今日は長く走るとい う日は身体もそれを承知しているが、そうでない時、例えば、バスを捕まえようと走った時などだ。数十秒走って息が上がりそうになる頃、ふっと身体のモード が変わる。まるで、身体が「ああ、旦那、いつものですね、承知しました」とでも言ったみたいに、呼吸や脈がすーっと速度を落とす。いつまででも走っていら れるようになる。そして、バスより先にバス停に着き、まるで、そこでずっと待っていたかのように、何食わぬ顔でバスに乗り込むのだ。

そんな感じだった。手の筋肉と耳の筋肉が揃って指圧の体勢に入った感じだった。ひとつ、ひとつ、圧を入れる度に、自分がその場所を圧されているみた いに感じ始めた。これまでに、私の凝り固まった頑固な身体を、丁寧に、忍耐強くほぐしてくれた人達の手を思い出す。彼らの暖かくて安定した手を思い出す。 ふくらはぎをマッサージしてくれたあの男の子の手を思い出した。その時に診察室のラジオから流れていたヒットソングを思い出した。男の子が鼻歌まじりに いっしょに歌っていた。「人混みの中で見た笑顔。あなたは美しい」窓が開け放たれていて、街の喧騒が聴こえていた。誰かがクラクションを鳴らした。どう か、私の手もあの男の子の手みたいでありますようにと願う。エイプリルがあの暖かさを感じていますようにと願う。エイプリルの頭にギャベージの歌が鳴り響 き、あの日、男の子のクリニックで治療を受けていた私のように、自分の家で寝転んでいるみたいな気分になればいいと思う。そこへ猫が通りかかって背中を歩 いて行ったみたいに、安心した気分になればいいのにと思った。

私はそのまま指圧を続けた。足から頭に移動し、耳の両側を手の平の外側を使って圧していく。 ギャベージが大音量で歌い続けていた。その、穏やかとは言えないリズムと奇妙にも聴こえる歌詞が私の頭の中にどんどん入ってきた。そして、私の中の静けさ を一つ一つ、丁寧に消していった。部屋にエイプリルの気配が漂い始める。私はエイプリルの腕を取って、ゆっくりと回した。自分の身体ごと大きく回した。気 配をかきまわすように。

エイプリルは相変わらず死んだように動かない。白いので余計に死体みたいに見える。 その様子を見ていて、ふと、さっき、エイプリルが話していたことを思い出した。 「短距離の選手が動なら、長距離は静。選手が走っているというより、周りの風景が移動しているように見える。それなのに、一方で、何かが聴こえてくる。あ の微動だにしない身体の中から何かの音が湧き出している感じがする」男の子は確か、そうエイプリルに言ったのではなかったか? 今、私の前に横たわってい るエイプリルはまさに彼が見た長距離ランナーだ。死体みたいに見える身体の中で、音楽に合わせてエイプリルが踊り狂っているみたいに思えた。同時に、どこ かに旅に出ているみたいにも。どこだろう? きっとスコットランドだ。ギャベージのボーカルの女の子の生まれた街でも見に行っているのだろう。街中で地図 を広げているエイプリルが見える。エイプリルの気配が聴こえる。

ああ、そうかと思う。彼女は気がついていないようだが、男の子は、エイプリルが走っているところを眺めていたのかもしれない。彼は、毎日、毎日、エ イプリルを見ていたのかもしれない。エイプリルの中の音を感じて、自分の中の音を感じていたのかもしれない。なんの脈略もないことだが、私はふと、彼は フィジオ・セラピストか、マッサージ師か、なにかそういう職業につくような気がした。そして、エイプリルの身体を治すことになるだろうと思った。エイプリ ルみたいな人々を治すことになるだろうと。どうして、そんなことを思ったのかは分からない。ただ、なんとなく、そう思った。エイプリルのランニングウェア 姿が私にも見えた気がした。雨はまだ降り続いている。ギャベージが歌い続けていた。

 

あなたの悲しみを私に注いで
あなたの苦しみを私に分けて
あなたの悲しみを私に注いで
あなたの苦しみを私に分けて

 

歌詞引用:
「Only Happy When It Rains」September 18, 1995
From Album 「Absolute Garbage」July 23, 2007
作詞/作曲 Garbage
訳 筆者

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Hiroko Hosaka / ライター、朗読者、指圧師見習い

会社員をするかたわら、短編小説など執筆。詩や絵本、小説の朗読も 行う。現在、ポエムドロイズオンリーのメンバーとして詩の朗読をしている。タオ指圧を勉強中で、ドネイションベースで指圧を行っている。興味のあるかたは 本人まで問い合わせください。タオ指圧は気の流れを良くし、自らの身体の力で治っていくことを目的とした指圧。bpnf1219@gmail.com

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Yurie  / イラストレーター

ポートレートを描くときはお客様とその対象との関係性、背景にあるストーリーをヒアリングしてから描いています。そうすることでお客様の目を通して 感じることができ、お客様が愛するように対象をとらえることができるからです。イラストでしか表現できない空気感を大切に描き続けています。
☆ポートレートのお問い合わせはyuriehoyoyon@gmail.comまで。”Cradle Our Spirit!”を見て、と書き添えて下さい。

 

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HosakaHiroko

HosakaHiroko

小説書き、朗読者、指圧師見習い 短編小説を地道に執筆。詩や絵本、小説の朗読を行う。マラソンなど延々とする感じのことを好む。最近、家の猫が2匹になり、猫のことばかり考える日々を過ごす。 田之上尚子 / 挿画家 ペンと水彩で、物語の世界を描く。絵本・エッセイ挿絵・ポスターイラスト等手がけたり、年に2、3回画廊やギャラリー、病院内で個展を開催。 音楽も好きで、長野県松本発バンド『有機幻燈』に所属し、パンデイロなどの、鳴物も勉強中。
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