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Nov 27, 2015

イン・マイ・ライフ

第十話 ウチナーンチュの優しさに触れて 

その1(個人タクシー運転手)

Photo & text by Sammy Takahashi

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 「いいところよ」と言う妻の勧めで訪れて以来、毎年2、3度は沖縄で過ごすようになりました。行き始めた当初はリゾート地、観光地の印象でしたが、もっと沖縄を知りたいと、ある時、文化や歴史に触れられるという「沖縄ワールド」を訪ねてみました。そこから那覇市内に戻ろうと、家族4人でタクシーに乗り込み、私は助手席に座りました。

車内に「個人タクシー運転手、嘉数」と書いてあったので、「なんとお読みするのですか?」と尋ねると「かかず」だと教えてくださいました。沖縄らしい名前です。その嘉数さんが「ちょうど今日サトウキビを収穫したから、お客さん、持っていきなさい」と私に言ってこられました。「旅行中ですから」と断っても、まあそう言わずに持っていきなさいとサトウキビを渡されました。正直、おせっかいだなあと思ってしまったのですが、ビニール袋に入った2本のサトウキビを受け取って車を降りました。

降ろしてもらったのは那覇市内のカワイ音楽教室です。妻が長男のピアノの練習のためにと、スタジオを予約していたのです。そこで私は携帯電話がないことに気がつきました。私はよく物を置き忘れるのですが、この時も運転手さんとのやりとりの際に、持っていた携帯電話を座席横のポケットに置いて、そのまま忘れてしまったのでした。あーサトウキビなんてもらわなければ。でもそれはそうと、旅行中とはいえ仕事の連絡があるかもしれないので、すぐに新しい携帯電話を買いに行きました。

ところが携帯電話のお店に行ってこの話をすると「お客さん、一日だけ待ってください。きっと見つかりますから」と言うのです。しかし、そんな当てにならないことを言われてもと今すぐ買いたい気持ちがはやります。でもお店の人は「いや、お買いにならないでください。一日だけ待ってください」の一点張りでかないません。

長男のいる音楽教室の先生に、その話をすると、明日まで待ってみたらいいですよ」と同じことを言うのです。それで二件目に行かずに待つことにしました。

それからホテルに帰って、食事をしている最中、「そうだ、一応ホテルの人にこのことを伝えておこう」と思いつき、フロントに行って話をしました。「ちょっとお待ちください」と言われて待っていました。すると「こちらでございますか?」と私の携帯電話を差し出されました。驚きでした。

どう考えてみても、タクシーでは運転手さんの名前を聞いたりはしたものの、こちらの名前や滞在先のホテルなど話した覚えはないのです。おそらく車内での私たちの会話から推測して、滞在先のホテルを探し当てたのでしょう。ありがたいことに携帯電話と一緒にフロントには嘉数さんの名前と電話番号も残されていましたので、すぐに電話をしてお礼を伝えました。嘉数さんもすごく喜んでくださり、人の情の温かさに満たされて、その晩はゆっくり寝ることができました。ぜひこの感謝の気持ちを何かの形にしたいと思って、後日、琉球新報の読者の声の欄に投稿しました。

その数年後のことです。バンクーバーの私の学校に「娘を入学させたい」と来られた親御さんが沖縄の人だとわかったので、私は「沖縄の人が大好きで」とこの一件を語りました。するとその方が、私の投稿を読んだ覚えがあると言うのです。小さな出来事ではありますが、投げかけた喜びが人々に共有されて再び自分のもとにとうれしい思いが重なりました。

現代の日本人が忘れてしまったような昔の良さ、優しさを沖縄の人たち(ウチナーンチュ)は持っています。それにしても、少しでも高い携帯を売ろうとする商売人もいるなか、「お買いにならないでください」と言ったお店の人。その心意気は素晴らしいものです。

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TakahashiSammy

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サミー高橋は大阪写真専門学校を卒業。国画会、滝沢遼平氏に師事し、芸術写真、抽象写真を学ぶ。
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