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Jan 29, 2017

和なこと体験記

如月

~能はさながらエスプレッソ

Text by Megumi Nishijima

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先日、「若者の若者による若者のための能」として2004年に立ち上がった「若者能」第12回公演に行ってまいりました。

能を見るのは、初めて。歌舞伎でさえ数年前に見に行った時はわけがわからなかったので、楽しめるか少々不安でしたが、この「若者能」はそうした初心者へのフォローが万全で。パンフレットにあらすじが漫画つきで載っていたり、twitterで同時解説があったりと、誰でも楽しめる工夫が随所に凝らされています。

 

開演前に、能楽師の塩津圭介さん(若干32歳!)と実行委員の方による解説がありました。

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「現代の映画やドラマは次々にストーリーが展開していく早回しの芸術ですが、能はその逆。ある決定的な瞬間を引き延ばしているので、現実世界では20分経っていたとしても、お話の中では5分だったりするのです」

だから、現代人が見ると動きが少ないというか、難しく思えるのかもしれません。

 

「能楽」は狂言+能を指すそうで、この日もまずは狂言『寝音曲』からスタート。狂言はセリフもわかりやすく、笑える話が多いので、気楽に見られて好きです。

『寝音曲』は主人から「お前の歌声いい感じだから歌ってみろよ」と言われた太郎冠者が、「でも気に入られると、この先何回も歌わされて面倒だな……」ということで、あれこれ理由をつけて逃げ回る、というストーリー。

「海外公演で最もウケるネタ」というだけあって、会場からも笑い声が上がっていました。

次に仕舞(能のダイジェスト版のようなイメージ)『鵺』。塩津さんのお父様がシテ(主役)を演じてらっしゃって、72歳だというのに身のこなしがさすがでした。まったくの素人なもので、何が何だかよくわからないうちに終わってしまいましたが、プログラムがリズムよく進むので退屈しません。

 

そしていよいよ能『殺生石』。twitterでの同時解説もスタートです。

玄翁という高僧が下野国を通りかかった際、ある石の上で鳥が落ちることに気づく。近づいてみると、一人の女が現れて「恐ろしい石だから近づくな」と注意されるが、じつはその女がほにゃららで……というストーリー。

 

台詞はところどころ聞き取れる単語があるものの、ほとんどわからないので、twitterで「ここはこういう場面」とか「しばらく舞台に注目」など、タイムリーに解説が入ると大助かり!

クライマックスで石が割れ、シテの塩津さんが迫力のある能面と華麗な装束でパッと現れ、舞う場面は圧巻でした。

終演後のアフタートークで、改めて装束を見せてくださったのですが、総柄のシルク。「絹や麻など、装束の素材にもこだわり、『本物』を追求するのが能」なのだとか。

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塩津さん曰く、「例えるなら、能はエスプレッソです」。

コーヒーに慣れていない人がいきなりエスプレッソを飲むと、苦くてとても美味しさなど感じられないように、歌舞伎や狂言をすっ飛ばしていきなり能を見てもおもしろさは理解しがたいのかもしれません。

 

引き算に引き算を重ね、『シンプル』を極めた芸術。それは、従来のメディアに慣れ過ぎた私たちの脳を揺さぶり、時間や空間の感覚さえリセットしてくれるよう。虫の音を虫の声と認識するのは日本人だけだそうですが、私たちが遺伝子レベルにしまいこんでいた『本物を感じ取る目』も、覚醒される気がしました。

 

おまけ

「酒飲みの酔っ払いの妖精」の能面をつけてみました♡ 妖精や幽霊や、「この世にいないもの」がたくさん出てくるのも能ならではですね〜!

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今月の教訓:エスプレッソの美味しさは、すぐに理解できなくてもいい


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Megumi Nishijima

Megumi Nishijima

文筆家、編集者、ヨガインストラクター、数秘リーダー。東京在住。 自分軸で豊かに生きる大人のためのコミュニティ「hatobaの会」発起人。幼少期より物語や言葉の持つ力に惹かれ、現在は出版業界に勤務。25歳でヨガを始めたこときっかけに、心・体・たましいのつながりに興味を持つ。「地に足のついたスピリチュアル」をテーマに、五感で感じたことを大切にしながら、自分の思いや体験を綴っている。
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