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Apr 6, 2017

数学的妄想

バタフライ効果 その四

Art & Text by Nobuko Igaki

nobu

 

なぜかいつも「蝶」

通常、数学の概念が、世間一般に広まることは数少ないが、学会主催者が目論んだとおり、「ブラジルで蝶が羽ばたくとテキサスで大竜巻が起こる?」というローレンツの講演タイトルはインパクトがあって一般ウケした。これによって、カオス現象の初期値鋭敏性は、「バタフライ効果」という通称で広く親しまれるようになった。

くしくも、カオスが発見される前の1951年に、レイ・ブラッドベリが発表したSF短編小説「雷のような音」では、過去にタイムトラベルした主人公が一匹の蝶を殺してしまい、それにより現代が変わってしまう。これこそ文字通り、バタフライ効果だ!

ところで、ローレンツの3変数気象モデルは、大気の動きをシミュレートしたものだが、その3次元の軌跡を、ある角度からみると、不思議なことに、ちょうど蝶が羽を拡げた形に見えるのである。これが、冒頭に掲げた図である。またしても、蝶・・・。

いつか、どこかで、一匹の蝶が、本当にハタハタと羽ばたいたのだ。

そして、きっとそれが、カオス発見の機が熟すきっかけとなったのだ。

 

カオス発見の意味

カオスは気象学だけのものではない。いままで複雑すぎるとあきらめていた日常の現象すべてを見直すきっかけとなった。複雑な現象でも、ひょっとしたらその裏には、とってもシンプルな数式が隠れているかもしれない。今まで誰も、そんな風に考えたことはなかったが、カオスの発見によって、その可能性が出てきた。

カオスの発見以前は、我々は、単純な現象は単純な仕組みから生まれ、複雑な現象は複雑な仕組みから生じると、勝手に思い込んでいただけだったのだ。

どんどん変化する雲のうごき、葉っぱのかたちをつくる仕組み、ぎざぎざしたリアス式海岸のかたち、人体の中の血管網。日常のあらゆる現象に、カオスの香料が振りかけられ、あたらしい視点が芽吹こうとしていた。しかも、それは、今や細分化されてしまった学問領域の壁を、事もなげに飛び越えた現象のとらえ方であった。

そう、カオスの発見により、いままさに、学問が統合の方向へ向かいはじめているのかもしれない。と、妄想するのは、私だけではないであろう。

音楽、建築、数学、幾何学、解剖学、生理学、動植物学、天文学、気象学、地質学、地理学、物理学、光学、力学、土木工学 ・・・。ウィキペディアで、レオナルド・ダ・ヴィンチ (1452 – 1519) の項をみると、彼があらゆる学問領域で成果を出していたことがわかる。あの時代には一つのもののようであった学問は、それ以降、どんどん細分化の方向に進んできた。きっと、その必要があったのだろう。これまでは。

だけれども、いつの時点かで、どこかで、きっと一匹の蝶が羽ばたいたのだ。

人類に新しい世紀をはじめさせるために。

 

冒頭の図は、下記より引用

https://ja.wikipedia.org/wiki/ローレンツ方程式

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井垣伸子

井垣伸子

数学者 東京都出身。関西学院大学教授、博士(工学)。数学を実社会に応用して、複雑な状況における意思決定を支援する研究をしている。氣圧療法士の資格をもつヒーラーでもあり、みえないものへの興味がつきない。みえないものをとらえようとする写真家でもある。
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