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Apr 21, 2017

世界丸ごと食べ歩き

イタリー編

~食の王国シチリア島

Photo & Text by Mark Akabori

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サンセバスチャンを十二分に満喫した後に、今度は、イタリアの食の王国シチリア島に向かった。

さすがに、鉄道ではとてつもなく時間がかかり、マドリッド空港から直行便で一気に2HRで念願のシチリア島に到着した。これまで幾度となくイタリア全土をくまなく旅して回ったが、地理的にもシチリア島になぜかこれまで縁がなく、ずっとずっと訪れたかった場所であり4泊して今回のハイライトでもある。

地中海最大のこの島は、恵まれた自然と、まばゆいばかりの陽光に映える青い空と美しい海岸線が続く。

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古代より様々な民族が交錯する地でもあり、紀元前8世紀ごろよりギリシア人、フェニキア人に植民地化され次がローマ、6世紀にはビザンツに支配され、9-10世紀にはアラブ人が統治しイスラムの時代を経て、12世紀にはノルマン王朝が支配するという複雑な過去の歴史に異文化が織りなす豊かな陰影をシチリアにもたらしたのかも知れない。

とりわけ、アラブ人の優れた灌漑設備設置により、パルレモ近郊に田園地帯が広がり,コンカ・ドーロ(金の盆地)と呼ばれていたそうである。今も柑橘類が豊富で酸味のあるドライな地元白ワインが魚貝類にあい美味しく、野菜も強い太陽で生育もよく美味しいところである。加えて、地中海本マグロの漁場としても有名で日本にも輸出され、魚介類の宝庫でもあり、食文化が発達したのは至極当然で食の王国として名高い地である。

遥か古代より噴煙をあげるエトナの活火山のように、シチリア島は活力に満ち溢れ、街を散策するとギリシャ遺跡があるかと思えば、路地の向こうには金色のモザイク聖堂があり、ルネッサンス期にはあの大画家であるメッシーナを生み、古今東西の文化が錯綜し、歴史的建造物も多数あり食の王国以外にも大変興味深く、観光客を引き付けて止まない地であることが納得できる。

私自身、人生を楽しむことが一般的に上手なイタリア人のストレートな生き方にすごく共感を覚える。

イタリア人の人生観は“Amore Cantare Mangiare 愛して、歌って、食べて!”

人生には、大切なことがたくさんあるけど、愛する人がいて、そこに音楽があり、美味しい食事を共に、味わえたら、それ以上に人生が 豊かなことはないであろう。

私の信条は基本的に一食入魂である、人生において食にこだわり、楽しみ、そして友と味を分ちあい美味しいものを食べて皆が喜んで満足している笑顔を見るのが大好きである。

美味しいものを食べると人は皆、会話が弾み、幸せに浸り、恋人同士は仲が深まり、夫婦仲良く、家庭円満という美味しい食事=幸福というのが私の持論である。無論、何を食べるかも重要であるが、誰と食べるかが、さらに重要であり、一期一会を常に大切にしたいのである。

食べる事が大好きな自分が、長年の駐在生活を通じて、いつしか酒飲みが転じて酒の肴を作るうちに男の手料理を始めるようになった。

そのきかっけが、自宅が世田谷の下北沢にあり、渋谷の大学キャンパスにも近いこともあり、料理好きな母のいる我が家が大学時代いつしか友人たちのたまり場になっていた。

友人の中には息子の私がいない自宅に先に来て、風呂を浴びて私の浴衣を着用し、父と家族のように酒を酌み交わし意気投合している光景を見ると、どちらがホントの息子か、正直わからなくなるのである。あの頃は、我が家で深夜遅くまで友人達と異性の話をはじめ人生いろいろ語り合い、当時育ち盛りでよく食べる友人達は夕食にご飯3-4杯食べたというのに決まって夜中に腹が減ったと言い出すのである。すでに熟睡している母を、起こしてまで夜食を作ってもらうのも気の毒で、結局、自宅の私が自ら作ることになる。だし汁とゆずにワサビのきいた特製ノリ茶漬けと漬物を出すと、皆が旨い旨いと、大変喜んでくれた。そして、かれこれ40年を超える付き合いになる大学時代の親友に会うと、未だにこの特製茶漬けが話題に上るのを懐かしく、嬉しく思うのである。これが今日の料理道に勤しむ原点となったのかもしれない。

海外駐在していると会社の利害関係を超えた同業者で競合関係にあるトヨタ、本田等、他の知人とも親密な関係になり、自宅に招くと益々もって親しくなる絶好の機会になった。凝り性の私は一皿一皿に真心を込めて、懐石風仕込みで最高のおもてなしを演出すべく音楽、酒、食器にもこだわり至福の時をゲストと共有化したいと願うのである。いつしか友人から大変おこがましいが、バンクーバーの魯山人の名前を拝命するに至ったことは、誠に光栄極まりない。現役引退した今こそやりたいのは自分で作った陶器で料理を振舞えればこの上ない幸せと思っているのだが、なかなか到達には程遠いと言わざるを得ない。

何故、男の手料理の話に触れたかというと、最近の学会で東北大学の未来科学研究センターの川嶋教授によると、“調理は高齢化社会の老化防止に役立つ”との研究成果が発表された。調理中は、様々なプロセスで脳の血流量が増え、大脳の『前頭前野機能』が活性化し、思考力機能も向上し、脳機能テストでも誰もが実験前後で脳機能が向上していることが実証された。従い、料理のような日常的な作業が痴呆予防などに役立つことが判明し、高齢化社会に向けて重要な成果が得られたことになる。日本の古い概念である“男子たるも厨房に立つべからず”“亭主元気で留守がいい”は高齢化社会では、もはや古い概念として脱却せざるを得ない時期がやって来た。主婦を務める奥様はこれまで通り生涯一人でずっと食事を作り続けますか。“おい、メシ”“おい、お茶”にうんざりしている貴女が80歳まで(現在50歳と仮定)3万食の食事を一人で用意し続けますか? 今こそ亭主元気で自ら進んで料理を作らせる時代が到来したのでは、ないでしょうか。

料理ができる男性が広く認められ、望まれ喜ばれる、そんな世の中で男性諸氏には、ストレス解消にもなるので、是非とも料理を作る楽しみを、味わってほしいと願うのである。酒飲みには自分で作る酒の肴はこれまた格別で酒が益々旨くなること請け合いである。

亭主の老化防止にも役立つ料理を男に作らせ、奥方としても楽することができれば、ウィンウィンである。

男を食べる人から作る人へ変身させ、その気にさせるには、女性は“美味しくない”は禁句であり一切発せずして、一に我慢、二に我慢で、出来る限り褒める、励ます、ことがきわめて重要である。なぜならば、男は一般的に単純で一途で何事にもノリやすいので、“男は褒めて、育て、そして、伸びる”という大事な人生の教訓を決して、忘れないでほしいのである。貴女の健やかなゆったりした老後のためにも。

さて、シチリアに話を戻すと宿泊ホテルは海が一望に臨める高台にあり、坂道の多い街は入り込んだ狭い路地も多く、車が入り込めず、大きな荷物を持ってホテルまで自分で運ぶしかないと思いきや、ベルキャプテンが通りまで来て待っていてくれた。まだ、6月始めというのに、日中は日差しがとても強く、Tシャツに半ズボンでも汗ばむほどで、 サングラスと帽子が不可欠である。

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夕食が遅いイタリアだけに、先ずは、昼から美味しい地元の白ワインのラピタラ・ビアンカを飲み、イワシのフリットを前菜に、カジキマグロとボッタルガ(からすみ)のスッパゲテイを注文すると、ミニトマトの甘味とからすみの塩味が強烈なパンチ力でこの熱々を頬ばると、その旨みがじわっと口の中に広がり、さすが本場のパスタはやはり実にうまい。米国では一般的にちゃんとしたイタリアンの店でない限り、麺がゆですぎで柔らかく、多くの米人はこれを何とナイフで切って食べるのには驚きである。イタリアではパスタの湯で加減をあえてアルデンテでお願いする必要も一切なく、どこで食べても適性の麺の硬さで腰もありサーブされるのが米国にいる自分にはとても嬉しい。滞在中毎日のようにパスタを食べたが、イカスミ、松の実とイワシ、うにと完熟トマト、尾長海老とアーチチョーク、ボンゴレビアンコ、ムール貝と浅利のトマトソースなどなどバリエーションが多くそれぞれに旨い。滞在中に町から離れた海岸沿いの同じレストランに2日間も通い詰めた店がある。

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IL BARCAILOLO

http://www.barcaiolo.altervista.org/contatti.html

VIA CASTELLUCCIO43

SPIAGGIA MAZZARO

TAORMINA,SICILIA

TEL:  +39-0942625633

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厨房から次から次へと運ばれる前菜、シラスにオリーブオイルに唐辛子をまぶしスプーンですする、マグロや甘エビのマリネとルッコラとアーモンド風味、イワシ、イカとタコの魚介フリット、続いてイカの甘味とうまみが凝縮した熱々のイカスミスパゲッティに感激し、ウニのパスタに思わず笑みがほとばしり出る。

更にその日漁師が釣り上げた魚が日替わりで用意され,好みでいかようにも料理してくれ、これでもかと、出てくる。この店は毎日おそらく魚市場に行かずして目の前に停泊する漁船の地元漁師から直接買いしているので新鮮で割安で調達し提供してくれるので魚介類がうまいのが当然である。ここに来られて食べられただけで、幸せを感じる家庭的な料理である。

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イタリアンは、前菜、プリモ(パスタかスープ)セコンド(肉か魚)の順で最低3皿、追加で5皿というのが通常のパターンである。日本の感覚で南イタリアでお任せ料理を頼むと、出てくる出てくる前菜だけ数皿 ,プリモも数皿出てセコンドに行くころには、すべて旨いのは認めつつも、よく食べる私ではあるが、胃袋も音を上げて、デイナー半ばにして続行不能に陥るのである。シチリアのワインはアルコールが強く、ボリューム感と酸のある特徴的なスタイルで、白はカタラッタやインツォリア、赤はネーロ・ダヴォーラという耳慣れない土着品種で、清涼感溢れるドライな地元白ワインがどちらかというと好みで旨い。

終焉のないお任せ料理には驚きであるが、作り手からすれば、どれもおいしいので客に思う存分たっぷりと食べさせてあげたいという熱意の裏返しであり、それはそれで納得するが、それにしても地元の人の食べっぷり飲みっぷりには圧倒され、正直に兜を脱ぐのである。

南イタリアのシチリア料理は、いわば漁師料理で新鮮な魚介をふんだんに使った、食材の持ち味を十二分に生かすシンプルかつ豪快な料理で代々引き継がれるイタリアのマンマの料理の代表格でもある。最近、見た目に美しいお洒落でこじゃれたイタリアンの店が都会には横行しているが、それとは一線を隠し、外見内装には金かけてないが、味が勝負で旨いから店が繁盛しているので、たとえ待たされてもそれで良いのである。

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シチリア島を夜行寝台列車で後にして、ナポリに宿泊しフィレンツエとミラノの滞在を経て、イタリアのリヴィエラから南フランスに続き,世界のセレブを惹きつける優雅なリゾート地のポルトフィノ、世界遺産の村々チンクエテッレ、など多彩で魅惑的なイタリアの旅路が続く。途中で海洋国家の栄光を物語る3大宮殿の美術品を見るためジェノバに宿泊し、ついにフランスのバカンスの街ニースに突入した。それは、なんとテロで多数の犠牲者が出たあの痛ましい大惨事の丁度1週間前のことであった。

人の集まる空港、駅、繁華街には、マシンガンを装備した多くの警察・軍兵士が24時間厳重な警備体制を敷いてテロ防止対策しているが、この卑劣なテロが世界各地で起こり続けることに憤りを感じ、胸が強く痛む。加えて、欧州各国で増え続ける難民流入の社会問題をこれまでニュースで見てきたが、戦火を逃れて生死をさまよいながら、逃げてきた何も悪くない 犠牲者の難民を目の前にして、祖国での1日も早い和平の訪れを、ただただ祈るばかりです。

次号では、いよいよフランスからの美味しいレポートをお届けしますので、乞うご期待ください。

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Mark Akabori

Mark Akabori

1950年5月18日生。この世に生を受けた時間がなんと午後3時おやつの時間でこの時から先天的食欲症で食べること大好き人間。それが講じて男の手料理をたしなむ。 父は生命保険会社勤務で当時は自宅接待が多くお客さんの多い家庭に育ち母親は料理上手。 青山学院大学卒業後、日産自動車(株)本社に勤務。米国イリノイ大学ビジネススクール(MBA)社費留学を契機に米国を中心にカナダ、中東を含め累計約25年間駐在し訪問国は70を超える。 本年66歳を機に日系自動車販売会社のカナダ事業CEOから現役引退し、自宅のある米国ミシガン州のデトロイト郊外に暮らす。
Mark Akabori

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コメント10件

アバター hui | 2017.05.01 1:33

本当に世界丸ごと食べ歩きですねぇ。
凄い!そして、変わらず写真が魅力的です。

アバター Jerry Miyauchi | 2017.05.01 7:24

赤堀さん、
シシリー島、いい町に行かれましたね。私も行ってみたい所ですが、これまで機会がありません。早く行ってみたい所です。ここは赤も白も腰のしっかりしたいいワインがあり、新鮮な野菜、魚貝類と相性が非常にいい。後で島の情報を共有してください。
大学に行ってた頃は、そうだったと思わず膝を打ちました。当時住んでいたとこは阪急西宮北口で、岡本から大阪方面へ帰る友達が寄っていくところで、うちのおふくろも苦労してたのではないかな。3年になったとき、引っ越ししたので、その後は私が友達の家によく行ってました。その頃の母親はかなり太っ腹でしたね。
五月にはまた日本へ行かれるといううことですが、今回はどちらにお越しになりますか?早く大兄のお供をしてあちらこちらに旅したいと思う今日この頃です。
ご自愛あれ。
Jerry

アバター ゆめ | 2017.05.01 9:38

赤堀さん今回写真もとっても素敵!
カラスミのパスタが美味しそう

アバター Anna | 2017.05.01 13:12

うわあ、こうしてイタリア料理を見ると、本当に素材の味の良さが伝わって来そうです。地元で採れる食材で作る、新鮮なイタリアン本当に美味しそうですね。。。イタリア料理も、美しい小洒落た料理よりも、こうして豪快に食べるのが合っているかも。そして、このピスタチオがのったCannoli、これまたパリパリして美味しそう!お写真の路地裏もとても素敵ですね。
どんどん近づいてくる、フランス編も楽しみにしています。

アバター Thomas Sano | 2017.05.01 14:33

食は人生そのもの。再認識しました。栄養という体の健康と、一食毎の美味しさと楽しさという心の健康。生きて行くための大切な要素。経営でのストックとフローにも似ている気がします。
赤堀さんのエッセイを読むと、頭と胃袋が動き出します。今日も今からもう一杯行きます。

アバター marmar | 2017.05.02 2:06

今回のシチリア編、赤堀さんの言われる「一食入魂」がよく解りました。優しい御母上に私も大変お世話になりましたので、40数年前の楽しかった学生時代が懐かしく思い出されます。ではまた美味しい料理と酒で、温泉旅を楽しみましょう!

アバター Masukun | 2017.05.02 14:11

シチリアには9年前訪問しました。タオルミーナのギリシャ劇場から仰ぐエトナ山がとても印象的でした。想像していたよりずっと田舎で、ホッとできる環境と魚介の美味しさは抜群。赤堀氏のエッセイ読んでまた行きたくなりました。複雑な歴史を辿った地域を「文明の十字路」などといいますが、シチリアは「文明の万華鏡」でしょう!

アバター Maria | 2017.05.03 15:33

ウニのパスタ美味しそうですね〜どういう材料を使われてましたか?

アバター 蛍子 | 2017.05.04 10:37

またまた素敵なエッセイを有難うございました。男の料理もまたひときわ腕が上がることでしょう。エクセレンテ(⌒▽⌒)
我々もシチリアだけ行っていないので赤堀さんのエッセイ片手に回ってみたくなりました。
今頃はどちらで次のエッセイを執筆されているんでしょうねえ。

アバター Yoshiro Yamashita | 2017.07.22 10:25

このエッセーを読んで、赤堀さんの男の手料理の原点を知ることが出来ました。 また、美味しいものを愛する人達と食べ幸せを感じることが、人生最高の時だという赤堀哲学を読んで、深く納得しました。これまで、赤堀さんの心尽くしの手料理を山野君や今は亡き荻野君達と共に味わって来ましたが、改めてその贅沢さを思い知りました。本当に、ご馳走様でした。

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