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May 31, 2017

数学的妄想

バタフライ効果を超えて

Art & Text by Nobuko Igaki

nobu_june

カオスがもたらす安定性!?

さて、前回まで、カオスのバタフライ効果にフォーカスしてきたが、今回は、バタフライ効果を超えていこうと思う。前々回、ローレンツの3次元の大気シミュレーションの軌跡が、ある方向からみるとちょうど蝶の形にみえるという話をした。その3次元の軌跡の領域を、たとえば、「変てこ蝶ドーナツ」とでも呼ぶことにしよう。ここで、おやっと予感した人もいるだろうが、その予感どおり、どこから出発しても、大気中の分子は、すぐにこの「変てこ蝶ドーナツ」の中に吸い込まれてしまい、その外へは二度と出ないのである。蝶の2つの羽の一方をくるくる回っていたかと思うと、次にはもう片方の羽を回りというように、まるでデタラメに動いているようで、実は、ちょっと引いてみると、「変てこ蝶ドーナツ」という極めて安定した領域にその動きが収まっているのである。えええっ! まさか「安定」という言葉が、カオスの話に出てくるとは思わなかった?!

百聞は一見にしかず

文章で説明しにくいなあと思っていたら、ネット上ですばらしい動画を見つけたのでご紹介したい。これをみれば、カオスのことが直感的にわかってしまうだろう。冒頭の図は、この動画から撮ったものである。

https://www.youtube.com/watch?v=3T0T0_0zHNc

アトラクタに魅せられて

「変てこ蝶ドーナツ」のようなカオスの軌跡領域は、アトラクタと呼ばれている。魅せられる! 惹きつけられる! アトラクタ! 一体何なんだ? なにが起こっているのか? カオスが起こるこその安定って、何だ???

これと関係があるかどうかわからないが、こんな話を聴いたことがある。心拍のリズムは、心臓に異常がある人の方が、きっかり定期的だというのである。正常な心臓の心拍間隔は、かすかにゆらいでいるそうだ。また、次のような例もある。木の種子を食べる昆虫の個体数の変化において、その変化のようすがカオス的であるほど、個体数の爆発的増加がおこる間隔が一定になるそうである。つまり、毎年毎年のその昆虫の個体数はカオス的であり予測が難しいが、いつこの昆虫の個体数急増がおこるかは予測しやすくなるというのである。う〜ん、このことは、システムが複雑だとか単純だとかいうことではなくて、ある面での単純さを捨てることが、別の面での単純さを生むということになっているのかもしれない。だんだん、妄想的になってきたが、次回も、この妄想を超えて、さらにその先へいきたい・・・と妄想しているところ。

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井垣伸子

井垣伸子

数学者 東京都出身。関西学院大学教授、博士(工学)。数学を実社会に応用して、複雑な状況における意思決定を支援する研究をしている。氣圧療法士の資格をもつヒーラーでもあり、みえないものへの興味がつきない。みえないものをとらえようとする写真家でもある。
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