数学的妄想
偶然と必然の境界線が消えた!?
Art & Text by Nobuko Igaki
数列A
溶ける境界線
今、サイコロを何回か振って、出た目が偶数ならば0、奇数ならば1として、ランダムにならんだ0と1の数列をつくろう。たとえば,こんな感じである。
1, 1, 1, 0, 1, 0, 0, 0, 1, 0, ・・・ (数列A)
ランダムにつくったはずのこの数列、実は、たとえば冒頭の図のような関数y=f(x) を用いて、確定的に表現できることが、数学的に証明されてしまっている。もっと具体的に言うと、まず、1以下の正の初期値x0 からスタートして、
x1 = f( x0 )
x2 = f( x1 )
x3 = f( x2 )
︙
と関数f(x)を繰り返し使って、
x1, x2, x3, ・・・
という数列をつくる。つぎに、この数列を、もし、xiが0.5以下ならば0、もし、xiが0.5以上ならば1、と読み替えることにより、 0と1の数列に直してしまう。こうして読み替えた数列が、上記の(数列A)とまったく同じになってしまうような初期値x0 が必ず存在することが、証明されているのだ。しかも、偶然できた(数列A)が無限数列であっても。
(この証明は,「カオスとフラクタルー非線形の不思議」山口昌哉著(ブルーバックス)に載っています。初期値x0 が必ず存在することだけでなく、どのようにしたら初期値x0が求まるかも書いてあります。)
人間の身体の設計図DNAも、0と1の数列で表現できる
人間のDNAは、一文字が2ビット、つまり、2桁の2進数で表されるという。つまり、 00, 01, 10, 11 の4種類の文字で表される。その4種類の文字は通常、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C) と呼ばれる。DNAとは、この4文字が、約31億個並んでいるものだ。つまり, 0と1の数列が、約62億個並んでいるのだ。この数列に対しても、上記の理論をあてはめれば、この数列を確定的につくる初期値x0が存在するわけだ。すべてを生成するこの最初のだたひとつの値とは、一体何なんだろう? その人の原点? その人のタマシイ? その人のハジマリ?
アガスティアの葉
その人のすべてが書いてあるというアガスティアの葉がどういうものかわからないが、自分の名前、生年月日、生まれてからの歴史がすべて書いてある長い一行の文があるとしよう。これを、コンピュータ内での文字変換のように、 0と1の数列に変換してしまう。すると、上記の理論から、これも、ある一つの初期値x0から確定的に生成されてしまうことになる。このことが意味することは、運命を肯定するということなのだろうか? 最初さえ決まれば、後は必然ということなのだろうか?
境界をこえて
境界があるように見えるものでも、さらに高みから見れば、境界などまったく存在しないのである。ランダムと確定の境界を超え、偶然も必然も一緒くたになって、人類がその先へ進むとき、人類は何をみるのであろうか? その道しるべとなるのが数学ではないか? そんな数学への妄想的期待をいだかせてくれたカオスのお話は今回で終わりにして、次回は、別の窓から数学を妄想的に覗いてみようと思う。