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Sep 29, 2017

数学的妄想

下駄と靴

Photo & Text by Nobuko Igaki

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靴を悪者にするわけ

外国を旅して日本に戻ってくると、日本人が皆なぜか疲れているようにみえる。同じアジア人でも、たとえば中国では、働き盛りの女性も男性も、あふれんばかりの生命力をもち、まるで子供のようにお目々キラキラである。

日本人の生気のなさの原因が、靴にあるのではと、長年疑ってきた。鼻緒のある下駄や草履であれば、自然と重心が親指の付け根にのるのだが、靴を履くとなると、たいていの人が、その重心をかなりかかとの方へはずしてしまう。このバックバランスの状態、いわゆる気の抜けた身体の状態が生気を奪ってしまうのだ。

 

正しい重心

氣の入った正しい立ち方をするのは簡単である。普通に立った状態で、一度、両方のかかとをあげてから、ゆっくりと下ろす。このとき、かかとにどかんと体重をのせる手前で、かかとが地についていても体重はほとんどのっていないような状態をつくる。これが前重心の氣の入った立ち方である。突然、車がつっこんできても、ひょいと容易にかわすことができる態勢である。

 

靴のイメージが重心をずらす!?

冒頭の図のように、足とすねが直角についているようなイメージで靴を履いているのが問題ではないだろうか? 明治以降、靴を履くようになった日本人は、歩くときの足の使い方を忘れてしまったようだ。現に、足にトラブルを抱える日本人は多い。「手の長さを測って!」というと、肩から手指の先までの長さを測るのに、「足の長さを測って!」というと、足の付根からかかとまでの長さを測る人が多い。足のfootの部分が、意識から抜け落ちているのである。

 

目からウロコのひも靴の正しい履き方

ところが最近、靴職人H氏から、ひも靴の正しい履き方を伝授していただく機会があった。まず、靴の中に足を入れ、かかとをとんとんするような感じで、かかと部分にぴったりと深くかかとをつける。その状態のまま、靴ひもを最後まで力のかぎり締め上げるのである。どうしても、最後のところで少しひもがゆるんでしまうのであるが、それを防ぐためには、最初の固結びのところでひもを一回ではなくて続けてもう一回くるりとかけてから、ぎゅっと左右にひもをひっぱると、ひもはまったくゆるまない。その後、ちょうちょ結びをするのである。

こんなに締めては、足の甲の血流が悪くなるのではないか? はたまた、足首が動かしにくくなるのではないか? と思うほど、しっかりとひもを締めるのだが、このようにして履いた靴の感触は想像を超えるものだった。何故か足が軽い。靴が軽い。つま先が自由である。足首がなんと曲げやすい。足を蹴り出したときにも、かかとはまったく靴から離れず、ぴったりとかかとについてくる。これは、これは、そう! まるで、これは靴下のようなのである。皮で作った靴下のようなのです!

 

どこで考え違いをしたか?

はて? どこで靴に対する考え違いをして、何十年もの人生をおくってきてしまったのだろうか? その答えを探していて思いあたったことは、私が、そして、おそらく多くの日本人が、“靴というものは、下駄の上部を皮で覆ったもの”のように思っていたのではないかということである。そこから、冒頭の図のようなイメージを描いてしまったのではないか。

 

靴は下駄ではなかった!

しかし、靴は下駄ではなく、日本風に言えば、むしろ、足袋だったのである。革製の足袋である。消耗を防ぐために、靴底が付いているだけなのだ。それはつまり、大工さんの履く地下足袋のようなイメージである。下駄と足袋では、靴への思い方が随分と違う。

 

大地の下駄

下駄は、どちらかというと大地なのである。大地を裸足で歩くと痛い。だから、大地を木で覆い、その木を一歩一歩かかえて、その木の上を裸足で歩く。これが、下駄の発想であると思う。大地を裸足で歩くという発想なので、下駄歩きでは、人間本来の自然な歩きが実現できているのだ。

かたや靴はそうではなくて、靴は足袋であったのだ。靴は靴下であったのだ。もちろん、裸足で靴を履くと痛いし、湿気も不快なので、靴と足の間に本当の靴下をかませるわけだが。つまり、靴下を2枚履くようなものだ。靴下を2枚履いて、大地を歩いているわけだ。これでも、人間本来の自然な歩きが実現できるではないか!

 

生き生きと靴を履こう!

さあ、数学の問題を解くようにして、靴の謎が解けた。今日から靴を履くときは、まるで靴下を履くように、皮を足にぴったりと巻きつけるような発想で、ひもをきつく締めて履いてください。あなたの人生が生命力あふれるものに復活することでしょう。

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井垣伸子

井垣伸子

数学者 東京都出身。関西学院大学教授、博士(工学)。数学を実社会に応用して、複雑な状況における意思決定を支援する研究をしている。氣圧療法士の資格をもつヒーラーでもあり、みえないものへの興味がつきない。みえないものをとらえようとする写真家でもある。
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