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Dec 2, 2017

数学的妄想

不完全な数学

Photo & Text by Nobuko Igaki

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数学は完全ではない

数学の中に、「論理的な思考ではたどり着けない領域がある」、つまり、「証明することも反証することもできない命題たちがある」ということを証明してしまったのが、ゲーデル(1906-1978)という数学者である。つまり、数学は不完全なものだったのだ。

 

哲学は終わったのか?

この不完全性定理が発表されて、数学者たちががっくりしただけではなく、哲学も終わったと言われた。そりゃあそうだ。人間の頭で、いくら緻密に論理的に思考を積み重ねたところで、行き着かない領域が残ってしまうのだから。しかし21世紀の今、数学も哲学もすたれてはいない。それは何故なのであろうか? 不完全だとわかっていたとしても、現代社会では数学は結構役に立っているし、生きる意味を求め悩む人間のサガも不滅であるからであろう。

 

ちょっと感激

それにしても、数学に限界があるということを数学的に証明してしまったゲーデルもすごいし、数学自体もすごいと思いませんか? やはり人間の思考は、たいしたものだ! 数学が不完全であることを知ったショックよりも、数学が不完全であることを証明した数学のすごさを知った感激の方がちょっとだけ上回るかな。そんなわけで、現代でも数学者が生き延びているのかもしれない。

 

神の領域か?

ところで、論理的思考で到達できない領域ってなんだろう? 神の領域かな? 愛の領域かな? 想像するだけで素敵な感じがしてくる。

その領域には、論理的思考を超えたなんらかの思考で到達できるのだろうか? あるいは、思考ではなくて、瞑想かなにかで到達できるのだろうか? たとえそれがわからなくても、論理的なことが万能ではないって知ることだけで、ちょっとホッとするのも本音である。

 

数学の世界は、マルチ・ユニバース?!

さて、数学は不完全である、といきなり冒頭から書き始めてしまったが、実は、数学は一つではない。いろいろな数学があるのである。まるで、マルチ・ユニバースのように。そもそも数学とは何かというと、いくつかの前提(これを公理系という)からスタートして、論理的に組み立てられた思考の体系である。だから、異なる公理系からスタートすれば、異なる数学ができるわけである。

たとえば、いろいろな幾何学があることは一般によく知られているだろう。ユークリッド幾何学では、三角形の内角の和は180度であるが、これが180度より大きくなる非ユークリッド幾何学もあるし、180度より小さくなる非ユークリッド幾何学もある。

 

数学だって、ただの人間の思考

だんだん、数学がふにゃふにゃになってきました。そもそも、人間の外側に、完全無欠な数学の世界があるわけではなくて、数学はただの人間の思考の一部にすぎないということだろう。つまり、それほど数学は人間的なものだということ。数学的妄想こそが数学そのものかもしれない。

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井垣伸子

井垣伸子

数学者 東京都出身。関西学院大学教授、博士(工学)。数学を実社会に応用して、複雑な状況における意思決定を支援する研究をしている。氣圧療法士の資格をもつヒーラーでもあり、みえないものへの興味がつきない。みえないものをとらえようとする写真家でもある。
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