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Dec 1, 2019

気がつけば魚がいた

ブリ
Photo & text by Takuya Hikita

「何が違うんだろう。どこを見てるんだろう。」彼の疑問に上司はただひたすら、行動のみでしか教えようとしなかった。「俺の魚を見ろ」そういう強い雰囲気だけが伝わってきていた。

朝0時半出社の生活が続き、1年半が経とうとしていた。ここでまた一つの事件が起こる。その日、彼はいつも通りに18時には寝支度を済ませて、ベッドに横になった。その時だった・・目の前がグルグル回り、見上げる天井が歪んで見えた。尋常ではない眩暈と同時に、強い吐き気に襲われる。六畳一間の独身寮には共用スペースにしか流し台がない。ベッドから這い上がり、歩き出すものの強烈な眩暈と吐き気が続き、そのまま部屋の真ん中で倒れ込んでしまった。

 このままでは気絶してしまう・・薄れゆく意思の中で携帯に手を伸ばす。画面を見ることもままならない状態で119番をコールした。最後の力を振り絞り、状況と所在地を伝え、いよいよ意識を失った。何時間経ったのだろうか・・気が付けば、「聖路加国際病院」の病室にいた。眩暈は少し改善したものの、とても歩行出来るレベルではなく、そこから寝たきりの生活が始まる。食事を摂ることも、トイレ・お風呂に至っても人の力を借りずして出来なくなってしまった。深い絶望と強い自己嫌悪に襲われる。言葉を敢えて選ばないとすれば、「もう俺は障害者なのか・・・」そんな気持ちでしかなかった。

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秋も深まり、いよいよ冬シーズン到来ですね。海水温が下がると魚は断熱効果を高める為に体内に脂肪を蓄えます。それが所謂「脂が乗る」ということで、今日のブリについても同じことが言えます。ブリは成長するに連れて名前が変わる出世魚です。関東では15センチほどの幼魚のことをワカナゴ、ワカシと呼び、30~40センチの若魚になるとイナダ、ワラサ、そして50センチ以上になってブリと呼ばれるようになります。関西では幼魚をモジャコ、ツバス、若魚をハマチやメジロとなって、最終的に関東と同じくブリと呼ばれるようになります。この他にも東北や四国、九州など、地方によってさまざまに呼び名が変わります。他の出世魚のスズキやボラと比べても、ブリの呼び名の多さは群を抜いています。ブリのこうした「出世」がめでたいものとしてとらえられ、お祝いの席や神前の供え物、贈答にもブリはよく使われています。

寒ブリとは、その名のとおり寒の時季に捕れるブリのこと。ブリは初冬になると産卵のために北海道から九州の五島列島付近まで南下をするのですが、中間地点である富山氷見市近海で捕獲したものが、最も脂がのっている状態だといわれています。しかも、能登半島の出っ張りにぶつかるおかげで、足止めされた沢山のブリを捕獲できるのだとか。これが氷見市が寒ブリ漁の聖地と呼ばれている所以です。

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