Magazine
Apr 1, 2020

気がつけば魚がいた

Photo & text by Takuya Hikita

一年分を在庫し、一番高い需要期に販売する形である。「在庫が悪とする鮮魚部と、在庫が良となる塩冷部」その考え方を一つに注目してみても正反対であり、そのような異なる性格を社内に抱えている企業にまだまだ自分としては学ぶ余地を感じていくことになった。

この塩冷部において、数多くの冷凍商材を担当した。広島・宮城産のカキ、中国産のワタリガニ・アサリ、北方海域のタラバ・ズワイ、北海道産のサケ・マスなど。その中でも特筆すべきは、社内プロジェクトであったイクラ商材であろう。当時、イクラ商材は50歳過ぎの部長が担当していた。そもそもイクラは前述通り秋に遡上するサケから取るものであり、その時期にしか漁獲できない季節モノだ。その為、買付金額もまとまる。多くの会社では“ボス級“の担当者が取り扱いをしていた。

当時、北海道石狩にある加工会社を買収し、自社加工場として運用開始し2年が経とうとしていたが、社内プロジェクトとして「原料から製品まで」と大きな目標を掲げる中で、事業的活路を見い出せていない状態が続いていた。そこで鮮魚部より移動してきた入社6年目の彼に白羽の矢が立った。視点改め、現状突破を見出す。と表現すれば聞こえは良いが、ようは殿軍のような役目でもあった。同時期、イクラ前年損失により担当者である部長は責任を取るという意味合いと、加工会社の品質向上の為に石狩にある加工会社へ移籍する事が決定した。

絶句するような買付予定数量が引き継がれた。イクラなんて一度も販売したこともない。何ならイクラはあまり好きではなく、自分自身が食べることも臭いを嗅ぐことも嫌である食べ物だ。しかも仕入方法においても社内的な正しいプロセスを踏んでいない。まさに「担当兼決済責任者」という縮図による弊害であった。勿論、仕入先は稟議が整っているものと信じており、今更の解約は出来ない。イクラのいろはを何も知らないまま3000ケース、36トンという在庫が肩に伸し掛かった。しかも品質が良くない。分かる担当者であれば誰もが嫌がるレベルである。悪いことは続くもので、イクラ各種が長期在庫として他にも冷凍庫に眠っており、それを帳尻併せるように複雑怪奇な仕入販売交錯になっていた。

「これを俺が売るのか…」絶望的な数量と品質。気持ちはどんどん沈んでいった。そもそも、自分の意志で仕入をしたものでもないし、自分の責任でもないものを何で俺が頑張って売らなければならないんだ。そんな荒んだ気持ちに溢れていた。考え方がマイナスに振れれば、行動もマイナスに振れる。行動がマイナスに振れれば結果はマイナスに振れる。負のスパイラルに完全に飲まれていってしまった。

The following two tabs change content below.
Hikita Takuya

Hikita Takuya

疋田拓也(Hikita takuya)東京都世田谷区出身、父親の実家である静岡県・沼津にて魚釣りをしたことから、すっかり魚の「とりこ」になる。大学時代は海洋学科にて魚類行動学・機能栄養学を専攻。築地魚市場㈱に入社後、セリ人として鮮魚・冷凍魚を取り扱う。その後、北米での原料買付・アジア向けへの輸出業務を経験。その後、2018年「TSUKIJI FISH MARKET Inc.」をバンクーバーに設立。モットーは「ニッチの強者」
Hikita Takuya

最新記事 by Hikita Takuya (全て見る)

Comment





Comment