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Apr 30, 2020

気がつけば魚がいた

夜明け前

Photo & text by Takuya Hikita

 「これを俺が売るのか…」絶望的な数量と品質。気持ちはどんどん沈んでいった。そもそも、自分の意志で仕入をしたものでもないし、自分の責任でもないものを何で俺が頑張って売らなければならないんだ。そんな荒んだ気持ちが溢れていた。考え方がマイナスに振れれば、行動もマイナスに振れる。行動がマイナスに振れれば結果はマイナスに振れる。負のスパイラルに完全に飲まれていってしまった。

 結果だけ先に伝えよう。社内的にも確実なマイナス在庫として試算していた商品であったが、これを彼は大幅なプラス利益をたたき出し、短期的に販売することになる。どうしてそんな事が出来たのか。それはやはり「意識の方向性」だけであった。マイナスからプラスへの変化。当初は前述通りの「腐れ態度」であったものの、販売を重ねるにつれて少しずつ気持ちの整理がついてきた。そして、整理がつけば次にやることは「イクラにおけるマーケット」の調査であった。ゼロからイクラについて勉強をしていく。地道な作業が続いた。

この苦境を通じて彼は多くのことを学んだ。「売れるものを売ることは誰にでも出来る」「売れないものを売ることが実力である」彼の中での営業姿勢が強化されていく。そして、「売れないという言葉はその商品を売れる売り先を知らないだけ」という究極的な境地まで達する事で上記のような結果を導き出した。つまり全てのことは自己責任である。環境や状況のせいにしている段階では、大きな成長と展開には繋がらない。「乗り越える」という言葉と「受け入れる」という姿勢を最大限活用し、彼は数段上にある場所に辿り着いた。

 そのやる気と前向きな姿勢は、少しずつだが周囲にも影響を与えた。「熱さは伝染する」彼はとにかく訴え続けた。上記の不良在庫を販売し終えた後の課題は、「自社ブランドのイクラをブランディングする」であった。そもそもの職務としてはここにある。前述通り、北海道石狩にある加工会社を買収し、自社加工場として運用開始し2年が経とうとしていたが、社内プロジェクトとして「原料から製品まで」と大きな目標を掲げる中で、事業的活路を見い出せていない状態が続いていた。業界においても後発、産地的優位性でも劣る、そんな我々は2番煎じでいいんだ。社内にはマイナスの気運しか見えない。つまりは諦めだ。

 「自分たちがここまでだと思ってしまったら、それまでしかない。それ以上は望めない。出来ない理由を5個探すのではなく、出来る理由を5個探すような姿勢で臨まない限り、突破口は見出せない」とにかく自社愛なくして成功は見えない。自分たちの持つ力を信じないで、絶対に乗り越えることは出来ない。作る前から諦め、売る前から諦め、そんな後ろ向きの姿勢では闘うことはできない。一人だけ燃え続けることは容易ではなかった。周りのマイナスオーラは容赦なく彼のプラスをかき消す。それでも彼は自分が燃えることで変わる未来を信じていた。高いモチベーションを維持し続け、いつか周りの人にも熱さが伝染することを。明日を変える為には、今日を変えなければいけないことを。

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Hikita Takuya

Hikita Takuya

疋田拓也(Hikita takuya)東京都世田谷区出身、父親の実家である静岡県・沼津にて魚釣りをしたことから、すっかり魚の「とりこ」になる。大学時代は海洋学科にて魚類行動学・機能栄養学を専攻。築地魚市場㈱に入社後、セリ人として鮮魚・冷凍魚を取り扱う。その後、北米での原料買付・アジア向けへの輸出業務を経験。その後、2018年「TSUKIJI FISH MARKET Inc.」をバンクーバーに設立。モットーは「ニッチの強者」
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