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Apr 30, 2021

All You Need Is Love

「 インスタント•カルマ 」

Text & Photo by Eriko Rowe

最近の出来事で一番嬉しかったのは、昨年暮れに、幕張に住む息子の妻のJ子さんからフェデックスのパッケージが届いたことでした。なかには私宛に届いた本を守るように、こちらでは手に入りにくい食品や、ふかふかのインナーシューズ、8歳の孫のK君が英語で手書きしてくれたクリスマスカードが入っていました。 

J子さんはフェデックスのIT社員なので、米国へのフェデックスも社員割引で簡単に送れるのですが、息子やJ子さんから贈り物が届いたのは10年ほど前に息子が結婚して以来、初めて。私の方は毎年、お誕生日やクリスマスには息子一家にプレゼントを送るのですが、なしのつぶてで、感謝のメールもないのが普通になっていました。

長い髪をおかっぱにしてそろそろ40歳なのに日本のアニメに出てくる少女のように見えるJ子さんは息子によれば普段から無口だそうですが、久しぶりに会ったときにも、J子さんの方から私たちに話しかけてくることはまずありません。息子の家に泊まりに行ってもご馳走や朝食を用意して歓迎してくれるといったことは皆無で、お茶さえ出してくれないので、これは歓迎してませんよ、という無言のサインなのかもしれないと思っていました。ただ、J子さんはこちらから話しかければ、ニコニコととても気持ちの良い返事を返してくれるのです。

実は私自身も姑のことはあまり好きではないのですが、彼女が訪ねて来た時には礼儀として大ご馳走で歓待するので、「それにしても、義理の親にお茶ひとつ出さないとは、J子さんは警察官の娘にくせにどういう育ち方をしたのかしら」と呆れたり、それともJ子さんの態度も、「息子から私への恨みつらみを散々聞かされてきたせいかしら」とも思ったりしていたのです。

というのも、私には息子が8歳の時に離婚して息子を日本に残して渡米し、彼が13歳の時にようやくNYに引き取ったという「過去」があり、幼い息子に辛い思いをさせたという罪の意識がいつも頭にあるのです。それで以前から息子一家の言動を冷たく感じたり、過剰反応しがちだったのですが、昨年の秋にはそんな私が大ショックを受ける「事件」がありました。

というと大げさですが、昨年の秋に、何か用があって、夜7時頃に息子の家の電話に電話をかけたら電話は鳴りっぱなしで留守電にもならなかったのですが、その夜、息子から、「家の電話には電話しないで。用があったら夜中の11時過ぎに僕の携帯に電話して」というメールが届いたのです。

それを読んで私は「が〜ん!」。「やっぱり私はJ子さんに嫌われていて息子は内緒でしか私と話せないのだ!」と思い込みました。あまりにショックだったので、「それほどJ子さんに嫌われているの?」と息子にメールを返しました。すると珍しく息子からすぐ返事が来ました。「家に電話しないでと書いたのは、家の固定電話は充電切れだったし、全然使ってないから。夜中にと書いたのは、夜早い時間はKを寝かしつけていて電話が鳴ると起きるからで、都合が良いのは11時過ぎからだからです。なんでも自分中心に考えるのはやめたらどうですか?」

そうした経緯もあって、私は気づいたのです。J子さんの言動やその無言さも私への故意の「態度」ではなく、彼女が人見知りだからで、それに私が不安を覚えるのも、インスタント•カルマなのだ、と。現世中の過去の自分の行いの帰結が現世中に現れることを私は勝手にインスタント•カルマと呼んでいるのですが、私は幼い頃、極端に人見知りで、とくに母方の叔父さん一家に対して、それは無愛想で失礼な態度をとっていたことを思い出したのです。

その叔父さん一家は大塚の護国寺神社のそばの、第二次戦争で焼け残って真っ黒になった2階建ての「近代住宅」に住んでいました。狭い路地に並ぶボロボロの長屋のような木造の家ながら、まだ東京に水洗トイレが普及していなかった頃からトイレは和式の水洗という不思議な家。まるでつげ義春や宮崎駿が描く世界のようで、それだけでも不気味だったのに、その家には鋭い顔つきで背が高く、いつも浴衣姿でお化けのように見える母方の祖父も住んでいました。おまけに叔父さんは結核で、ふだんは元気にしているけれど、時々ドバッと血を吐く人でした。それでも母はその叔父さんが大好きだったので、「叔父ちゃんの結核は伝染らない結核だから大丈夫よ」と言い張り、嫌がる私の手をひき、それは頻繁に会いに行き、その家で半日雑談しながら過ごすのでした。

今にして思えば幼い頃の私は人見知りだけでなくエンパスだったのかもしれませんが、叔父さんのことは好きだったにもかかわらず、どうしてもその家に入ることができませんでした。それで、いつも母がお茶の間で歓談している間中、靴も脱がずに一人で玄関に立って待っていたのです。叔父さんも叔母さんもとても良い人で、そんな私に嫌な顔ひとつ見せず、責められたこともありませんが、内心ではどんなに不快な体験だったことでしょう。  

叔父さんには私よりひとつ年上のひとり息子がいて、小学校に上がる頃には一緒に外で遊ぶようになりましたし、叔父さんの家も恐くはなくなりましたが、母の親戚の間ではずっと、たぶん今でも「えりちゃんは変人」と思われています。

というわけで、J子さんのことはインスタント•カルマと思うようにしたら、J子さんの存在や態度もわだかまりなく受け入れられ、家族の健康を祈るときにも躊躇なくJ子さんにも無条件の愛を送れるようになりました。

J子さんからフェデックスが届いたのは、それから数ヶ月後のこと。私にとっては愛が通じた証のように思え、ことさら嬉しかったのです。

さっそくお礼を言おうとラインのビデオ通話で息子に電話すると、いつもは顔を出さないJ子さんも顔を見せ、「インナーシューズはK君セレクトですよ!アランにはちょっと小さいかなとも思ったのですが」と教えてくれました。私たちのことを想いながら買い物してくれたのんだ、と思うと、さらに嬉しく、足元だけではなく、ハートがさらに温まりました。

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Eriko Rowe
ジャーナリストでマインドフルネス&ウエルネストレーナー、日本人では唯一の公式認定HMRトラウマ解消療法のセラピストでもある。取材と実践で世界の古代文明、伝統文化や伝統療法、気功やエネルギー•メディスンを学んできた。著書は「太古から今に伝わる不滅の教え」(かざひの文庫)、「キラキラ輝く人になる」(ナチュラル•スピリット)、「死んだ後には続きがあるのかー臨死と意識の科学の最前線」(扶桑社)、「アメリカ•インディアンの書物よりも賢い言葉」(扶桑社)など。元コーネル大学、ワシントン大学非常勤講師。シアトル在住。www.bioenergytraining.com eriko@mindfulplanet.com
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